隊長の洗脳演説会

Rainy Day's Memory

今日の話は特に面白くありません。




仕事の帰り。

バイクで走っていた所、急に雨が降ってきてびしょ濡れになってしまった。

降りしきる雨の中、必死にサングラスに付く水滴を拭いつつ、走る俺。

…そういう状況になると、俺はいつも一つの思い出を思い出す。

あれは俺がまだ高校生だった頃の話だ。




俺には、小学校一年から一緒だった腐れ縁の女がいた。

つまり小学校・中学校・そして高校まで一緒で、その中で何回か同じクラスになったこともあった。

顔は普通、ただし胸はFカップという逸材だったが、この話は別に関係無いので割愛。

そいつとはけっこう普通の友達で、悪口を冗談で言ったり言われたり、誰が好きだとか(そいつは非常に 年上好みのヤツだったので、よく先生に惚れてた)、そんな話もしたこともあった。


さてある日。

俺が高校から帰ろうとしたら、急に大雨が降ってきた。

「傘なんてかっこ悪いぜ」と粋がってたバカな当時の俺のこと、突然の雨に対応する傘なんてあるわけも無い。

しかし、正門からバス停までは数百メートルある。



どしゃ降り。



俺は諦めて、雨の中を歩き出した。



すると後ろからその女の声。

「ぷっ! ジンキ、傘忘れたの? バッカだねー」



振り返ると、そいつが何人かの友達と一緒に傘をさしながら歩いていた。



「うっせー。水も滴る、って言うだろーが」

俺は情けない顔で言い返してやった。



……。



「わりぃ、そこまで傘に入れてくんねぇ?」

バカな俺は、その一言が言えなかった。

くそっ、と誰にとも無く呟きながら、俺はまた歩き出す。



どしゃ降り。



意味も無くジェルでつんつんに立てた髪が濡れてへたばり、ぺたりと頭に張り付く。

…かっこわりぃよ、俺。



急に、雨が止んだ。



いや。



周りはまだ降っている。

俺の周囲だけが、水が落ちてこなくなった。



上を見上げると、赤い傘。



「そこまででしょ? 入れたげる」

そいつの笑顔があった。



友達とは別れたんだろうか。



「え? うん、ああ…サンキュ」

妙によそよそしい態度で、俺は頷く。

まるで余計なお世話をされた小さな子供のように。

そいつより背の高い俺の背に合わせて傘を高く持ってくれていたそいつの態度が、いかにもウザイみたいな表情をしながら、並んで歩く。




ホントは、




すげぇ、嬉しかったのに。




恋愛感情だとか、そんな安っぽい話じゃない。

傍から見たら下手したら相々傘と思われるかもしれねーのに、

気にせずに傘に入れてくれたそいつの優しさが、




すげぇ、嬉しかった。




普段ならどうでもいいことを話している所だが、

何故かバス停に着くまで俺はほとんど口がきけなかった。



屋根付きのバス停に着いたとき、俺はただ「ありがと」としか言えなかった。



「いーよ、別に」

そう言ったそいつの笑顔は、やけに可愛かった。



いや、違う。

たぶん「優しさ」が、可愛く 見 せ て た 。



あの赤い傘は…。



…。

歩道のすぐ傍を、水しぶきを上げながら走る俺のバイク。

視界の隅に写った赤い傘は別人だろう。

たぶん今日の俺の話などとうの昔に忘れたであろうそいつは、

今はどこかで小学校の先生をやっていると聞いた。



久々に、メールでも送ろうかな。



どしゃ降りの中、俺はちょっとだけ口を曲げて笑った。




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