平凡な日常に潜む哲学に挑む




施川ユウキ 作品群[漫画]


評価した人:ジンキ


 哲学とは何か?」

 そう問われたときに、あなたは何と答えるだろうか。
 辞書によれば、「世界・人間・事物などの根本原理を思索によって研究する学問。また、自分自身の経験に よって得た人生観・世界観。全体を貫く理念」とある。そう、確かに字義通りに言えばその通りであり、俺も かつてそのように倫理の時間に習い、かつ同じようにそれを信じてきた。
 しかしそれら哲学者の書く本というものは、とかく難しい言葉ばかりが並び、本質を理解させたいのかそれとも こちらの思考をショートさせたいだけなのか悩むものさえある。結局のところ、選ばれた人間にしか理解できない ものこそが良き書物であるという間違った考えを地でいくものばかりだと思う。

 しかし!
 今回紹介する「施川ユウキ」が描く漫画はそれを打破した偉大なる作品なのである!……とは言い過ぎ かもしれないが、とにかくこの人の書く漫画は難解な哲学的要素がふんだんに 盛り込まれているにも関わらず面白いのだ!

 本人は絵を描くことが苦手だと言い切っており、実際画力は決して高くはないのも確かだ。出てくる 女の子なども、ほのぼのはしているが可愛いとか萌えるとかは一切無い。というより、そのキャラクターと分か ればいい、という絶対的な記号と言った方が近いかもしれない。要は棒人間に個性を付けているような感じだ。
 だが、この人の作品に関しては、おそらくその絵だからこそ内容が生きてくるのだと思う。
 冒頭の話とつながるが、この人の作品は主に日常に潜む哲学にポイント を置いているので、絵というよりも内容で読ませる。それゆえ、絵があまりに綺麗過ぎるとそちらに目が行って しまい、肝心の中身に触発されないことになってしまう。
 つまり、「そのキャラクターが話している」という状況さえ分かればいいわけで、そういった意味では簡略化 された絵の方が内容に親しみやすくなるわけだ。

 まぁ駄目な哲学書のように分かりにくい俺の説明では理解しかねると思うので、作品を細かく紹介していくと しませう;




 頑張れ! 酢飯疑獄! 1〜5巻

 評価:★★★★★★☆☆☆☆

 施川ユウキの最初の作品で、基本的に四コマ漫画。ジャンル的には「ナンセンスギャグ マンガ」に属するらしい。
 『銀魂』が吉本的なお笑い、『マサルさん』がシュールな笑いとするなら、確かにこの『酢飯疑獄』は1、2巻 ぐらいまではかなりのナンセンスな笑いを徹底して追及している。ぶっちゃけた話、たまに 笑うところが分からないこともある。それほどのナンセンスっぷりで、素人にはお勧めできないw

 しかし、この頃からすでに施川氏の日常に対する類稀なセンスが光っており、3巻辺りから明確なレギュラー陣 ――生活の中の些細なことを憂う羊のラムニー、逆にそれらに憤るオニムラ、突っ込みまくるのん子ちゃんなどなどに よって、普通の人が全く気にしていない事柄の中にも考えるべきことは多数あるのだということを実感させてくれる。
 また、単行本に収録されている施川氏の書き下ろしコラムも見逃せない。ここにさり気なく載せられている施川 氏の言葉から、彼が非常に博学であることが窺い知れるからだ。そこで述べられている日常生活の節々にある特異 点や言葉の一つ一つの響きに対しての拘りなど、改めて言われると個人的にも気になりだすことが多数ある。

 それぞれの回が短いので、比較的長い連載だったにもかかわらず5巻しか出ていないが、それでもここで培われた 多くの要素がさらに昇華して次に述べる良質の二作品を生み出したものと考えるなら、わずか5巻と言えども大 きな価値があることは否定できないだろう。

 何度か読む内に内容が全て分かりきってしまうストーリー漫画とは異なり、どこから何度読んでも繰り返し 楽しめるので、つい風呂上りとか寝る前とか微妙に時間が空いたときには手にとってしまう。そんな不思議 な魅力を持ったこの作品、まずは実際に読んでその平凡な日常に対する絶妙な感覚を味わってほしい!




 サナギさん 1巻〜

 評価:★★★★★★★★☆☆

 施川氏の二番目の作品で、今回も四コマ漫画形式だが、タイトルでも分かるように最初から明確に主人公が 決定している。全体的にほのぼの感が増しており、酢飯疑獄から毒要素を抜いた 感じの漫画と言えば間違いないと思う。

 主人公は中学生のサナギさんで、彼女と彼女の親友で独特の感性を持つフユちゃんとの会話が メインで話は進行していく。さらにそれに加えて、常にイライラしているタカハシ、究極のネガティブ思考を 持つサダハル、密かな残虐性を秘めたマナミ、哲学理論派のハルナなど彼女らのクラス メイトたちによる掛け合いが、漫画をより一層引き立てている。

 さてこの漫画は、たぶん俺の思考パターンにかなり大きな影響を与えている。なぜなら、この漫画は普通の人は 日常生活を送る上で当然とみなしているごく当たり前の事柄に焦点を当て、そこから無駄に話を広げつつ面白さ を加味していく構成をとっているからだ。
 それが俺と何の関係があるかと言うと、つまり日誌や演説などを書く場合に利用されるのだ。
 実際のところ、日々生活を送っていく中で劇的な事柄などそれほど多くは生じない。九死に一生を得る経験 なんて、一生に一回あればいいほうだろう。しかしそれではわざわざHPにアップしてまで書くことなど全く なくなってしまう。
 そしてそこでこの漫画の、引いては施川氏の思考スタイルが役に立つ。日常のどうでもいいこと、誰も気に しないようなことに対して目ざとく焦点を当て、さも大したことでもあるかのように大風呂敷を広げて話す ことは、他人に大きな感慨と笑いを与えることが出来るのだ。
 もちろん俺はプロである施川氏のように面白おかしく話すことはまだ出来ないが、それでもこういった思考 パターンを持つと自分自身の生活も楽しくなる。常に何かについて目ざとくあり、それを楽しもうと考える積極性 は人の感性を富ませるからだ。

 それで、この漫画は最近生活が面白くないとボヤいている人に是非読んでほしい。
 たかが一つの日本語の語呂や響きだけでも、それを深く考えれば話題は尽きないし、生活は波乱に富んだ ものとなる。要は、そこに気付くかどうかだけの問題だということが分かるだろう。




 もずく、ウォーキング! 1巻〜

 評価:★★★★★★★★☆☆

 施川氏の第三作品目で、サナギさんとは同時進行で出版されている。前作二つとは異なり、数ページの短編 とはいえ漫画の形をとっているが、結局のところ全体的な印象はそれほど変わらない。一つのテーマが取り上げ られ、そのテーマに関して多くの事柄が語られるというパターンだ。

 主人公は犬のもずく。彼は施川氏が語るとおりスヌーピーによく似ている。
 つまり、自分が犬であることをよく理解しており、そしてただのペットとして藤村家に飼われているのだが、 無駄に知識だけは豊富で、何でもない物事を哲学や寓話になぞらえてしち難しく考えたがる。この点は酢飯疑獄 の頃から脈々と引き継がれている視点で、サナギさんのハルナを経由してさらにグレードアップしたような思考 パターンを持っているのがもずくというわけだ。

 俺は個人的に、このもずくは施川氏の考え方そのものを具現化しているのではないかと思う。
 つまり「哲学」とは何も書物の中だけに記されている机上の論理 なのではなく、数学や科学、社会学が日常生活と密接な関係を持っているのと同じように、人々がただ生活して いく中で日々接しているものなのだということだ。
 確かに難しく考えることは面倒なことかもしれないが、それは生活を煩雑化させるためにするのではなく、 むしろその逆――己の意義を問うことによって、日常の中に埋もれてしまっている幸福を切り取るためにする ものだと思う。そしてこの漫画は、もずくとその飼い主家族、すれ違う犬たちの言動によってそれを分かり易く 説明してくれる。

 分厚い哲学書を読破してきた人には表層だけをさらったようなぬるい作品と思えるかもしれないが、俺の ような人間には、これくらい単純な理論とほのぼのとした絵で説明される哲学の方がずっと理解しやすいし、 価値もあるように思える。
 ヤングチャンピオンというややマイナーな雑誌で連載されているので少々見つけ辛いかもしれないが、ネット の通販ででもいいから是非入手して読んでほしい珠玉の作品だと、太鼓判押してお勧めします。


 では最後に、『もずく、ウォーキング!』から名言をご紹介。


 第6話『しゃっくり』より

 恋はしゃっくりに似ている
 突然やってきて苛立ちと共に体を支配し 突然去っていく



 第23話『枷』より

 生きていくというコトは
 知らず知らずのうちに背負わされた荷物と共に 困難な道を歩む旅にゃ
 簡単に荷物を捨ててはいけないのにゃ



 第51話『パスルピース』より

 世界が巨大なパズルだとしたら
 きっとそれぞれのピースは それぞれのしかるべき位置に
 奇跡を装いながら 神様の手によって 嵌め込められていく




 施川氏は「スヌーピーのようにクールに表現するのは難しい」とボヤいていますが、俺的には最高の名言だと 思うんだけどなぁw 俺もこんなカッコいい台詞作ってみたいもんです、いやホント;




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