一夜の出来事


「あ うっ 痛ぅっ……」

 重なり合う体の下から小さな、しかし確かに悲痛のこもった呻き声が聞こえ、アピスは腰の動きを止めた。
 おおむね予想通りの展開だ。一般人を大きく上回る体躯、そしてそれに見合った陰茎を持つアピスの相手を、 どう頑張ってもせいぜい中学生あるいは小学生の体型とも言えなくはないネイトが出来るはずなどない。事実、 彼女の秘部は今無理矢理に開かれて、みりみりと音が聞こえそうなほどに広がっていた。

「レ、レンちゃん……やっぱり無理だよ。レンちゃん小さいから、壊れちゃう」

 荒く呼吸するネイトの様に耐え切れず、アピスは半ば肉壁をなぞりかけていた自分のものを引き出そうと腰を 引いた。が、その体を二本の細い腕が掴み込んで押さえる。

「レン……ちゃん……?」

 下から伸びているそのか弱い細腕は下半身に走る痛みで力も入らないのだろうが、それでも必死でアピスの体に 絡みつき、彼がその場を離れようとすることに対しての絶対の拒否を顕わにしていた。
 驚いて顔を見れば、怒りと悲しみとが混ざったような目と視線が交わる。

「い、いいからぁっ あんた、男でしょ! ここまでやって……痛っ……あたしに 恥かかせる気!?」

「……レンちゃん、あのね?
 まだ経験がないことをバカにされたのは分かるけど、でもだからってそんなに焦らなくてもいいじゃない。自分の 初めてってのは大切にするべきだし、それに何もこんなに無駄に体が大きい僕なんかじゃなくても――ゲフゥ!?」

 小さな拳が見事にアピスの鳩尾に決まった。

「このバカ! バカバカ! バカバカバカのポンコツ!」

「ちょっ レ、レンちゃ あいたたたた 痛い痛い 殴らないで え、だって意味が分からな――」

 次々とヒットする拳。
 たまりかね、すぐにやめるようお願いしようと再び顔を見れば、今度は哀願の涙が溜まる瞳が揺れており、頬も 彼女のその瞳と同じく真紅に染まっている――そう、まるで愛する恋人を前にした乙女のそれと違わぬ様相に。
 強く想うわりに想われることには鈍感なアピスも、さすがに気付いた。

 誰かにバカにされたことなど、所詮――

「レンちゃん――」

「大切にしなきゃいけないことぐらい知ってるわよ……でも、だから! だからあたしはあんたに……アピスに 頼んだの!」

 ――言い訳に過ぎなかったのだ、と。

 やや落ち着きを取り戻しているはずの小さな体から聞こえる心音は、さきほどの痛みに耐えていたときよりも強く 早く、アピスを急かすように鳴り続けていた。いや、もしかするとその心音はアピス自身のものだったのかも しれない。
 混ざり合うそれはもはや区別がつかず、ただ互いの想いが重なり合っていることだけしか教えてくれなかった。

「……分かった。じゃあ、いくよ?」

 腕で目を覆っているのは、単なる恥ずかしさか、それともこれから再び自分を貫く痛みに対して恐れている視線を 悟られたくなかったためか。
 唇をかみ締めたまま、眼前のネイトが小さく頷いた。

 それをしっかりとアピスは確認し、浮かせていた腰を少しずつ少しずつまた落としていく。

「――――――ッッ!!」

 彼女の体の構造から考えて、自分の陰茎が根元まで入るなど到底無理な話だろう。漫画ではないのだから、 そんなことをすれば子宮を、下手をすれば内臓までも傷つけてしまう。
 恐らく半分、いや三分の一でも入りきれば彼女の“初めて”は大成功だ。

 そう思い少しは安心していたアピスだったが、想像以上に彼女の中が狭いことに、また少し罪悪感が疼いた。
 初めてということもあって念入りに愛撫し、溢れる愛液で潤滑になるよう努めたのだが、それでもなお彼女の 体をぎりぎりと壊しているようにしか思えない。もしかすると、緊張のあまり蜜も止まってしまったのだろうか。

 果たして彼女の唇はぷるぷると震えていたが、それでもなお気丈に悲鳴は上げていなかった。
 自ら頼んだこと、そして何より自分が望んでいる痛みだと理解し、彼女は必死に耐えているのだろう。アピスは それが堪らなく愛しいと思った。

 割れ物を扱うよう、壊さないように、絶対に傷つけないように、腰に体重をかける。

「〜〜〜〜〜ッッ!!!! ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」

 あと、少し。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!! あぁっ! あっ! んあぁぁあ〜〜〜〜ッッ!!!!」

 びくんっと跳ねた腰とそれに伴う悲鳴を合図に、ずぶりと入った陰茎がついに新たな肉壁にぶつかり動きを 止めた。同時にアピスも動きを止め、その場を二人の呼吸だけが響く静寂が支配する。
 やがてぎっちりと詰まって密着している二つの性器の僅かな隙間から、半透明ながら所々赤く染まる液体が 少しずつ漏れていることにアピスは気付く。

「っ痛ぅ……か、感謝しなさいよね!」

 痛みで、いや違う――これは嬉しくて、だ。
 願いが叶った喜びを噛み締め、ネイトの紅の瞳から三度目の涙が零れ落ちる。アピスと繋がっている限り激痛は 無くならないだろうに、それでも無理に作った笑顔はどこか歪んでいて困ったようにも見えた。

「あ、ああたしの初めて、は 全宇宙より……っか、価値があるんだからっ」

 自分も何か気の効いたことを言わねば、と思うが、どうにも言葉が出てこない。訴えるような瞳に押されやっと 捻り出した言葉は、

「……うん、ありがとう」

 全くもって気の効かない言葉だった。
 しかしそれでも“お姫さま”には十分に足りる言葉であったらしく、満足そうに大きく頷き、そしてまたそれに 乗じて響く痛みに顔をしかめる。

「もう、抜こうか?」

「ぅう〜〜 うん。。。あ、ちょっと待って やっぱりもう少し、その……このまま、で……」

「……分かった」

 重なる体を横向き倒したアピスは、繋がりをもったままネイトを傍に抱き寄せた。
 普段なら「うざッ」の一言で邪険に払いのけるであろう動作を、今日の彼女は拒否することは無く。むしろ彼の 大きな胸板に甘えるように寄り添う。冷たい月の明りの下で、互いの温もりが切ないくらいに優しかった。



「……アピス」



「ん? なに?」



「…………好き」



「嬉しいけど……でもたぶん――」



「たぶん?」



「僕の方がずっと好きだと思うよ」



 二つの笑い声が夜の中で柔らかく溶け合い――そして静かに流れていった。









 という、俺の気持ち悪い妄想伝!


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